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映画 仏陀再誕 感想レビュー(3)

『学校の部室。
 今度の新聞のテーマを操念会特集にすることになるが、みんないざとなると行きたがらない。』

 お嬢様学校っぽいのにいきなり新興宗教の取材に行くって、なかなか根性の座った新聞部ですな。凄い企画だ。っていうか、高校の校内新聞で宗教を扱うって、顧問の許可おりるのか? ああ、私立か。
 『発案を出しておいて、いざ実行になるとみんな次々逃げ回る部員の面々』
 ……いや、非常によくある無責任さでニヤニヤしてしまう。子供のPTAで、これと全く同じパターンで超ひどい目にあったことがあるぞ。

 ここでの台詞、
 『けどやっぱ宗教だし怪しくない?』

 宗教団体の作った宗教映画でこういう台詞が出てくるあたりが幸福の科学らしい。「一般にどう思われているか」という目配りがきちんときいている。大川総裁という人はこういう視点でいつも外から幸福の科学を点検しているのだが、映画でそういう視点が出てきたのははじめてだ。
 本当にカルトなら、こういう台詞はあまり出てこなかったりする。
 そして、
 『たしかめなくちゃ……自分で』 
 と決意するヒロインの心理はとても自然。結局、ヒロインともう一人の子が取材に行くことに。

 『いよいよ操念会に取材の当日。
 勝負服で決めるヒロイン。
 「自分もスクープを追っている」と、すっかりパパラッチな弟。
 操念会の入り口で、新聞部の同級生を待つヒロイン。
 そこへメールで「行くな」と止めようとする茶髪の兄ちゃん。
 だが、友人がドタキャン(このあたり、若い娘達の無責任さがきちんと書かれている)する電話と交錯して、茶髪の兄ちゃんの電話は通じない。あせる茶髪の兄ちゃん。』

 
 荒井氏に会いに行くのになんでそんな勝負服っぽい服を、と思ったら、ファンの女優さんの取材もあったのだな。
 ここでのメール・電話のシーンのすれ違いは上手い。画面に向かっておひねりを投げたくなったほどだ。シナリオのお手本になるのではないか。初シナリオ作品でこれをやれるというのはかなり凄い。

 ……先刻の牛乳のシーンといい、この待ち合わせのシーンといい、いくらでも平凡になるシーンを、全く飽きさせずテンポ良く、非常に上手くお客を引っ張っている。


 『操念会にはいっていくヒロイン。あとをささーっとゴキブリのように走っていく弟の動作が可愛らしい。
 会の中は壮大な仏教風建築で、朱塗りの巨大な柱に天井を見上げると梵字。
 受付のスカーフ巻いたお姉さんと言いポスターと言い、いかにも新興宗教らしい。ヒロインは荒井東作氏の講演会を聞くことになる』

 この建物、なにかすごく見覚えがあるので笑ってしまった。
 どこの団体に、というわけではないのだが、「いかにも」というイメージなのである。観光地なんかでもこんな所がありそうな気がする。
 近所の新興宗教の建物もこんなだぞ。
 建物の柱といい、梵字の書かれた天井と言い、重々しい背景が大変よろしい。

 ここまできて、この映画でスタッフが意図してやっているな、と思うのは、
 荒井氏サイドは「いかにも宗教らしい」「いかにもそれらしい説法と、トップの態度」で、現実にいたら「ああ、なるほど、なんか信用がありそうだな」と思わせる。
 既成宗教そのもののイメージなのである。
 いっぽう、本物の仏陀のサイドは……というと、それはこれから描かれる。

『荒井東作氏の説法。
【要旨】人はみな愚かだ。完璧な人間なんて世の中にはいない。
 その愚かな人間の愚かな行為によって地球は破壊され人心は乱れている。
 この暗黒の時代にどう生きればよいのか。
 人の世とは弱肉強食、きれい事を並べても結局は強くなければ生き残れないのか? 強くなるためには手段を選んではならないのか? 自身の主義を貫いて生き残るためには、弱さそのものが罪。妥協してはならない。すべては自らの手によって実現すべき。
 我に従い、教団に入れば偉大なる霊能力があなたがたを救う。』

 悪魔は九十九の真理を説いて、最後の一つで大嘘をつく、という。
 まさに途中まではそれらしいことを言っている。どこから嘘が入っているか、わかりますか?
 途中で「……なのか?」「……なのか?」「……なのか?」とたたみかけ、考えさせながら人を巻き込んでいくような説法が上手い。

 『弟は退屈して出るが、その外で茶髪の兄ちゃんと出会う。いっぽう、場内のヒロインは人びとの悪想念で気分が悪くなる。
 茶髪の兄ちゃんは、係員の制止もきかず、会場にずかずかと入ってヒロインの腕をとって外に連れ出す。
 屈強な黒背広のSPに「侵入者だ」と追いかけられるが、「TISのメンバーが外で待っている」といい、相手がひるんだ隙に弟がぶつかった消火器が倒れて噴霧してしまい、そのどさくさに紛れて逃げ出すことに成功する。
 それを見ながらふふふ、と、悪役笑いの荒井氏』

 動きのあるシーン、緊迫した展開。
 ここで、「消火器を倒したシーン」でヒロイン弟が深々と90度のお辞儀をした瞬間、弟のキャラクターが立った! ように見えた。
 ここまでやたら好奇心が強いだけのうるさいキャラクターみたいに見えていたところ、いきなり悪の団体に対して深々とお辞儀をする礼儀正しさは珍しくも感動もので、子供の純真さがよく出ている。

 いっぽう、激しい展開で見落としがちだが、ここで作品的に減点対象になるポイントは、『消火器』だろう。
 常識的に、消火器というのは黄色の安全栓を真上に引き抜いてノズルをひっぱらないと中身が噴霧されないものなのだ。
 非常にオマケして考えて、この作品世界の消火器は扱いが簡単になっているか、かなり老朽化しているものを使用しているか。
 前者なら消火器のデザインを変えておいたほうがよいし、後者なら、講演会場に入る前にちょっとした伏線が欲しかったかなというところ。

 もう一つ気になったのは、「講演会から連れ出しただけで黒服が立ち塞がるというのがかなり異常な状況である」ことを、背広に囲まれた瞬間にヒロインをもっと驚かせることで強調した方がよいかな、ということぐらい。
 あたりまえのように話が流れていったが、もしかしたら、宗教ってみんなあんなだと思われているのか?

 どこの講演会でも、ふつうあんなことはないし、あの場合は講演会自体が、荒井氏が念をかけるための儀式みたいなものなので、「獲物を逃がすか」とばかりに躍起になっているわけであるが、そのあたり、きちんと伝わっているかな?
 
 『逃げ出した一同。
 公園まで逃げてくる。
 再びヒロインを怒る主人公。「本当の仏陀は今……」といいかけてやめてしまう茶髪。なぜか口を割ろうとしない茶髪に怒ったヒロイン。ところが、痴話げんかの最中に、弟になにかがとりついて、倒れてしまった! 症例のない病気で、のどのあたりをとんでもなく腫らす弟。
 荒井氏のところが原因だ、と思ったのだろう。自責の念にひしがれるヒロイン。
 荒れる天候が波乱の展開を象徴している。』

 事情を話さないまま、有無を言わせず公園でヒロインを怒鳴りつける茶髪の兄ちゃんは、いかにも日本の男性らしい横暴さ。
 彼女を愛して心配しているからだなあとは思っても、きっちり未熟で人間的にカドがあることを感じさせる。
 いっぽう、ヒロインもここぞとばかり、破局に至った感情をぶつけて痴話げんか。
 犬も食わない何とやらで、これを延々聞かされたらちょっと辛いわね、と思っていたら、弟くんがひっくり返った。
 スピーディーな展開だ。
 姉貴の艶聞を追っかけ回していた弟くん、「好奇心、猫を殺す」の言葉通り、虚ろな目(こういうふうに、ショックで瞳孔が描かれない虚ろな目をアニメファンは「レイプ目」という)で倒れてしまう。
 ここであの90度のお辞儀がなかったらここまで可哀想には思わなかっただろう。
 少年に悪霊がとりついたのは、少年の精神に通じるものがあったから、ではなく、単純に呪殺行のターゲットになった、ということかな?

 『医者のお父さんに霊視のことを言って、「霊とか超能力とか非科学的なことが大嫌い」と一蹴されるヒロイン。
 反面、彼氏とはよりが戻りそう。』

 「非科学的なことは大嫌いなんだ」と娘を怒鳴りつけ、「すわ、家庭崩壊だっ!」 、と思ったとたんにお母さんの取りなしで、お父さんは優しいお父さんに返っていく。
 お、おとうさん、いい人だーっ! なんかほっこりしてしまったぞ。
 部屋で落ち込むヒロイン。
 ……そうか、操念会の取材と同じ日に行く予定だった、ファンの女優さんの取材も、弟クンが倒れて行けなくなったのだな。
 だが、彼氏が何か言いたげなのにさっさと電話切る彼女もかなり若くて青い。
 なお、ここで、女優「木村真理(マリ)」さんの声が出てくるのは、次の展開で、本人が出てきたときにお客がドラマにスムーズに乗れるための準備である。うむ。脚本に手抜かりなし、である。

 さあ、みなさん、次はいよいよ子安さんの出番ですよ!

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